気象と統計力学(P1)

P1 序 論

101(エネルギーの比:量子効果:2重構造)

降水現象の量子効果に関する研究(前編)

鬼 無 佳 介

要 旨

降水と大気で構成された系を考える。それらはエネルギーの比を持って釣り合っている。エネルギーの比を持つこの新しい力学系では時間が観測値より短くなって、降水と大気の両方に量子効果が現れ、系には古典統計と量子統計が共存することとなる。この現象を降水と大気の継続時間分布と降水の降水量分布を解析して検証した。

  1. はじめに

降水と大気はエネルギーを持っている。そして、降水と大気(晴れ)は均衡している。

いま、降水は水分子H2Oから、大気(晴れ)は窒素分子N2と酸素分子O2から構成されているとする。それらの分子の移動量を降水量と呼び、降水の降水量と大気の降水量は等しいと置いてみる。この場合は、降水と大気は構成粒子が異なっているから粒子数が違ってくる。従って、降水と大気は、異なったエネルギーを持つ。この系にはエネルギーの比が存在し、降水と大気はエネルギーの比をもって均衡する。

降水と大気のエネルギーに比のある系は、古典力学系よりエネルギーが小さくなる。E1を降水のエネルギー、E2を大気のエネルギー、E0を古典力学系のエネルギーとすると、降水と大気からなる系は、E3だけ小さくなる。

    \[E_1 + E_2 = E_0 - E_3\]

新しい力学系ではエネルギーが小さくなるため、エネルギーと相関している、平均継続時間と平均降水量も小さくなる、と考えられる。

降水と大気の継続時間と降水量が小さくなると、それらの分布の傾きが変化して降水と大気の両方に量子効果が現れ、系には古典統計と量子統計が共存することとなる。

本論前編では、降水と大気の継続時間分布と降水の降水量分布を解析して、降水と大気の平均継続時間が降水と大気のエネルギーの比によって観測値より小さくなっていること、それによって降水と大気の両方に量子効果が現れること、降水の降水量分布を解析して、系が2重構造となっているために降水量分布の傾きが変化することを示した。本論後編では降水量の揺らぎを解析して、系が2重構造となっていることを示し、付論で2重構造を分子論的に取り扱った。

  1. 研究の背景と目的

降水量の統計性、或いは統計的取り扱いは、岩井等1)(1976)によって我が国の水文学に導入されたが、藤田等2)(1990)に、「基本的な水文量について一般的に認められる分布特性としては、ほとんどの頻度曲線が非対称形を示すという定性的事実だけで、その物理的性質や理論的根拠に基づいて確率分布関数が演繹的に誘導されてはいない。それゆえ、基本的な水文量に関しては、何らかの関数を資料の頻度分布にあてはめるという方法で母集団の分布系を定める。」、とあるように、母集団の理論的な根拠からの導出に関する論考は、それが現実的に非常に有効であるにもかかわらず、なされて来なかった様に思える。

本論では、その母集団の理論的な根拠を、降水の統計性(ランダム性、独立性、均質性、定常性)、或いは一雨一雨の集合から、確率的に考察していきたいと考えている。その集合と確率の概念に基づくと、年間降水量分布の正規性は、年間降水量の揺らぎとして理解され、一雨の降水量分布の逆J字性は、1次元の古典統計、或いは量子統計として理解される。

降水はz方向のエネルギーが卓越している。統計力学では自由度1、1次元1方向である。また統計力学では、ミクロな粒子の情報からエネルギーの計算を行う。しかし、z方向にエネルギーが卓越した自由度1の粒子の落下の運動は熱運動では扱えない。外力を考える。重力とか摩擦力とかでは1次元の粒子の落下の運動を扱うことができる。しかし、外力では原子分子の情報に基づいたエネルギーの比と量子効果を扱うことができない。

本論では力学を用いないで、降水と大気を一雨一雨の集合と考えて、集合と確率と言う概念に基づいたエネルギーの比と量子効果が扱える平衡系の理論、降水と大気の確率論を構築しながら議論を進めていく。